鑑賞した日付:2019年8月12日
「宝石の国」  作者:市川春子
★★★★★
総合点:156点/100点

最高ですかー!?最高でーす!!もう本当に最高です。この作品。大好きすぎる。
 とにかく絵がとても綺麗な作品。全体的に僕好みの絵と題材。パワーストーンとかいろんなミネラルを集めていたことがあるので。個人的に“ど”ストライクな雰囲気、デザイン、色彩感覚、ストーリー、舞台設定。

女流漫画家の作品らしく、少女漫画的なデザインだが、それがとても綺麗で良い。

 様々な宝石を擬人化したファンタジー作品で、これならキャラも立つし良いと思う。けものフレンズを評した時と同じような良い感想を抱いた。登場キャラがとても多い話なのに、それぞれが“キャラ立ち”している。
どの宝石視点で話を進めても成立しそうなくらい、全てのキャラが魅力的。

 初めは何故か一話読み切りの軽い話のコメディーだと思っていたのだけれど、ストーリーも非常に深く考えられていて展開があって良かった。宝石達の軽口のセンスがいいというか。
しいて言うなら、展開が速すぎるというか、急ぎ足で紹介した…と言う様な、そのあまりに速い展開がちょっと…名残惜しいというかなんというか…。もっと見ていたいというか、もっと味わいたいというか…。宝石たちの年齢同様、この話自体が大長編でも良かったというか、そうなったらなったで今度は中だるみが酷い!とか思うのかもしれないけれど、これは珍しく大長編で良いと思ったような作品だった。

 理論に穴が無いわけでは無い。ウェントリコススの言葉が分かる様になったフォスは月人に差し出されるまでに、これまでに連れ去られた宝石の仲間が月でどのように暮らしているか?や、金剛の事について聞くチャンスがないわけではない。いや、それはちょっと難しいが。

とにかく、世界観もその他全部素晴らしい。
声優陣が豪華すぎて、それが良いんだけど、ちょっと制作費とかが心配なくらい。キャラが多くて有名売れっ子声優を脇役にまでふんだんに使っている。

あと、細かいことを言うと、宝石たちがアクションを起こした際の効果音がとても良い。
「コツッ」という宝石同士がぶつかったような音や、「キョリッ」という音等が。

アニメは漫画単行本の5巻までの内容。
デザイン、ストーリー、音楽、世界観、全てが良すぎるのでこの総合点です。
ただ、原作の方は徐々に“嫌な話・嫌な雰囲気”に移行しているようなので、ちょっとそれが今後どうなるのかによって点数も変わってくるかも。全体の雰囲気が非常に良い作品だったのに、現在漫画単行本の10巻時点ではその雰囲気が最悪になっているからね…。フォスが皆から悪人認定されているのが辛すぎる。本当に嫌な気分になる。
フォスがカンゴームに何度も殴られるシーンなんてホント見てらんない。
それによく考えてみると、アニメの展開的に嫌われている「仲間割れシーン」と「主人公が誤解される」というパターンの話が典型的な形で入っているので見ていて辛い。辛すぎる。


:以下ネタバレ含む:

マンガ単行本6巻以降で、
結局、「金剛」はロボットであることが判明するが、仮に金剛を人間と仮定すると、これは最高のハレムを描いた作品にも見える。(エロい意味で。)或いは、宝石達をイヌなどのペットと見立てた時の多頭飼いみたいな良さ。或いは大家族の兄弟たちの生活を描いたものでもあるような。その場合の金剛先生はビッグダディみたいな存在だ。
月人もアドミラビリス族も宝石達も、金剛の「愛の装甲」によって金剛を好きになってしまうというのは、なんというか、天皇陛下みたいというか、天皇陛下はその「愛の装甲」を体得している様な気がする。


:以下、ネタバレ的考察:
これは現時点(単行本10巻)までの展開を見て、僕が考えた今後の展開について。こんな事を思いついてしまったので書いておく。

 まず、金剛先生が頑なに祈ることをしない理由についてだけど、これは故障しているから…というのもあるのかもしれないが、もう一つの重大な理由として、金剛が祈りを行うと、人間由来の生き物(月人、宝石、アドミラビリス)が全て成仏してしまう(消えてしまう)から、金剛は祈らないのではなかろうか?
金剛は機械なので生き残るというか成仏しないし、機械だけど、この世に自分だけ残される孤独が嫌だと言う気持ちがあるのではないだろうか?だから今まで頑なに祈ろうとしなかったのではないか?と。
そして、フォスは既に仏教でいう所の七宝の内の六つまでを身に付けている。金・銀、瑠璃、玻璃・瑪瑙、真珠の事なのだが、あと一つ欠けているのが「玫瑰(マイカイ)」という赤い宝石。(ちなみに、「観音経」の中では、マイカイというのは無くて、珊瑚と琥珀です。)そしてこれはおそらくシンシャの事だろう。かつて中国で「水銀」は不老不死の妙薬とされていた。最終的にそれらをすべて身に付けたフォスは、金剛の祈りをもってしても死なない(成仏しない)存在となってしまうのではないだろうか?なので、そうすると金剛が祈った際に、この世には、生命体ではない機械の金剛と、いくつもの鉱物が合わさって機械みたいになったフォスだけが残されることになる。その圧倒的な孤独に絶望してフォスは月に閉じこもってしまう。
それから…更に数千年の時が経ち、また尾の浜にて新しい宝石(や、何らかの知的生命体)が生まれる。
それを金剛先生がまた保護し、また「宝石の国」を作ろうとする。
それを、頭がおかしくなったフォスが月から攻撃してくる…という、ある意味バッドエンドみたいな、或いは八百比丘尼の話みたいなループものとして終わるのではないか?と。
つまり、そもそもエクメアもそんな存在だったのかもしれないし、そこからはフォスがエクメア(月人)の役割になるのではないか?と…。

そもそも、なぜ、宝石達は皆、常に喪服を着ているのか?
それは生を謳歌する為ではなく、死ぬ(成仏する)為に生きているからなのではないか?という風に考えると合点がいくし、この話のテーマは実はそこなのではないか?という風にも思う。死ぬ為に生きている、死ぬ為に生まれてきた生き物というのは実際に存在すると僕は思っている。例えば魚類。魚は殆どの個体は他の生き物に食べられるために生まれてくるのだ。生きている方が例外的というか、稀なのである。特に、湖底や川底、海底に住む魚は、自分の口元にエサが来なければ、わざわざエサがあるところまで泳いでエサを取ったりしない。そんなことをするくらいなら普通に餓死を選ぶ。長年、いろんな魚を飼育して観察しているとそういう魚は結構いることに気付く。根魚って言うのかな?そういう魚は、例えば水中の酸素濃度が少なくなっても、水面に出て口をパクパクさせて呼吸をしたりはしない。そうするくらいなら、むしろあっさり、酸欠で死ぬことを選ぶのだ。生きていることの方が不自然な生き物…と言ってもいいくらい、魚は殆どが成長するまでに死ぬし、稀に成魚にまで生き残る個体の為に、他の個体は犠牲になって死んでいくのだ。例えば100個タマゴが生まれて、そのうち成魚にまでなる個体はどれくらいいるだろうか? そういう風に考えれば、魚は死ぬ為に生まれてきたといってもいい程、死ぬのが当たり前の生物なのだ。

もしそんなバッドエンドみたいな展開になったら嫌だな…という願いでこれは書きました…。

2020-9-12追記。
その後、漫画11巻まで読みました。上記の予想がほぼ当たってしまいましたね…。
アンタークが金剛の正体を知っていた理由は、アンタークもフォスと同じように液体っぽくなる宝石なので、冬の間に一度、秘かに月に運ばれたことがあったのではないだろうか?そして、月で自壊せず、金剛の元に帰ることを選び、地上に返されたが、そのことを秘密にしてきたのかもしれない。アンタークは口元に人差し指を当てる仕草が何度か出てきて印象的だが、そういう、なんというか、「秘密」とか「内緒」とかそういう事柄を象徴している宝石なのかもしれない。ちなみに、アンタークチサイトは非常に稀少な鉱物だが、塩化カルシウムと水を1:1の割合で混ぜて加熱すれば、簡単に合成して作ることができるらしい。
カンゴームだけ特別で、エクメアの寵愛を受けている理由はまだちょっと分からない…。


 フォスはフォスでやり過ぎだし考え方が極端すぎるし、他の宝石は他の宝石で非協力すぎたり醒めすぎていたり融通が利かなかったりしてもどかしい。初期の頃の仲良し兄弟一家みたいな面白可笑しい雰囲気が好きだったのに…。
とは言え、なぜ、一般的にはこの作品がそれほどウケていないのか、理解できない。
やっぱり僕は天邪鬼なところがあるのでしょうか…?原作があるのだから、また、この作品、見た人にとってはかなり評判が良かったようなので、是非とも2期を作ってほしいのだが…。

 なんでもかんでも女子高生アニメにする昨今において、
 絶対にアニメ(か漫画)でなければ表現出来ない物をアニメでやっているのが、当たり前だけど素晴らしい。

・音楽はこちらで紹介した!

サントラも最高!!音楽素晴らしい。